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仙台高等裁判所 昭和62年(う)75号 判決

本店所在地

仙台市卸町二丁目一番七号

セイブ商事株式会社

(代表者代表取締役 遠藤宜)

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和六二年三月一一日仙台地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官京秀治郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人渡部直治作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は、重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を精査し、当審における事実取調べの結果をも併せて諸般の情状を検討すると、本件は、食料品、雑貨卸売業等を営む被告人セイブ商事株式会社(以下、「被告会社」という。)の共同代表取締役金政郁が、原判示のとおり、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、受取手数料の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、所轄税務署長に対し、昭和五七年八月期から同五九年八月期までの三年間にわたり、それぞれ虚偽の法人税確定申告書を提出して各法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社において、右三か年度分の正規の法人税額と申告税額との差額合計五八二五万九〇〇〇円を免れたという事案である。本件犯行の経緯、態様等をみるに、被告会社は、パチンコ店を経営する原審相被告人株式会社百反に対する景品の卸を主たる業務としていたものであるが、パチンコ業界が過当競争であり、将来、被告会社の経営安定に備えてそのための資金を蓄えておこうと計画し、また、将来、換金所、修理・運搬業者を独立させ、いわゆる三店方式を確立させて業界内部での先鞭をつけ、被告会社発展のための資金を蓄えようとしたことから、自由に運用できる裏金を早期に蓄積しようとの意図のもとに、右株式会社百反の経営するパチンコ店の遊技客からの景品の買取りから同社への再度の納入にいたるルートを実質上被告会社で、管理、掌握しながら、形式上数社が介在するように装い、その間の手数料収入を一部除外して借名口座に隠匿預金するなどの不正な方法により所得を過少に申告して多額の法人税をほ脱したものであって、犯行の動機、態様、ほ脱率、ほ脱額等に鑑みると、犯情は芳しくなく、その刑責は軽視することを許されない。してみれば、右業界の経営状態や被告会社の近時における営業実績を考慮し、被告会社がすでに本税はもとより重加算税や延滞税等をも納付し、反省の態度を示すなどしていること、その他税務当局の取調べに対する協力的態度など所論指摘の被告会社の利益に考慮すべき諸事情を十分参酌しても、被告会社を罰金一二五〇万円に処した原判決の量刑はやむを得ないところであって、これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山政一 裁判官 泉山禎治 裁判官 井野場明子)

○控訴趣意書

昭和六二年(う)第七五号

被告人 セイブ商事株式会社

右の者に対する法人税法違反被告事件についての控訴の趣意は左記の通りである。

昭和六二年五月二〇日

右弁護人 渡部直治

仙台高等裁判所第二刑事部 御中

量刑不当

被告人に対する原審判決罰金一、二五〇万円は次の諸事情に鑑み、重きにすぎると思料されるから刑を軽減されんことを願うものである。

一 被告人の本件脱税の動機については、酌量の余地があると考える。

もともと被告人会社は経営の危機に陥っていたものであったが、金政郁が代表者となるに及んで、いわゆる三店方式による企業の拡大、会社経営の安定等をはかる意図のもとに、本件の受取手数料の一部除外による脱税に及んだものではあるが、会社を経営するものらの個人の利得を企ったものではない。

二 脱税の方法は売上除外の一種であって、その手段、工作は至って幼稚で簡単なものであった。

三 前記金政郁は既に退社し、経営面については、大橋経理部長という経理に明るい適材を得ており、今後において再犯のおそれはない。

四 被告人会社は、本件脱税に関しては、税務当局の取調べには、何ら隠すことなく、その非を認めて協力したものであり、本税、延滞税、加算税については、本件起訴のはるか以前において納付ずみのものである。

五 被告人会社は、身から出た錆ではあったが右の脱税額の納付のことなどもあり、最近に至るまでの業績は悪化していること、本書末尾の決算報告書(第六期及び第七期)昭和六二年二月分入、出金管理表の如くである。

六 被告会社としては、罰金刑は受くることにいささかの異議もないが、今後業績を進展させ、罰金納付にも支障がないようにしたい思いであり、罰金額の軽減を懇願するものである。

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